キッチリ君

イマイチ自覚が薄いんだけど、オレはどうやらキッチリやりたがる人らしい。

3年前に発売されたCD、ナグザットシューティングコレクションに烈火が収録された都合でブックレットにコメントを書いた時に、1000文字程度でって指示があったから約990文字で提出した。
基本的にゲーム制作屋ってのは、容量オーバーに散々悩まされてきた人種である。
だから、1000と云われたら1001なんて絶っ対にアウトに決まってる、っつー習性が勝手に働いてしまうせいで990のセンで合わせた次第なんだが、実際製品を見てみるとオレのコメントだけ他の皆さんよりも短くて、何だか一人だけやらかしちまいマシタ臭を醸してるように見えてしゃーない。
文字数と云えばチップチューンド・ロックマンのコメントもそうで、150〜200文字って指示があったから、185文字ほどで上げた。
チップチューンド・ロックマンでは曲の長さも指定があって、3分半から4分って云われたから、3分51秒に収めた。
ちなみに、あのCDに入ってる楽曲を最初に仕上げたのがオレとKuske君だという話は内々で聞いてたけど、それもただ云われた納期に間に合うように提出しただけな話である。
比較的近い話だと、キラキラスターナイトDXに1曲提供した際「NSDLibっていうサウンドドライバを使うんだけど、面倒だったらMCKでもMIDIでもいいです」と云われたのを、先方の希望する期日にNSDLで提出したら、数日後のロムに載ってた新規メンバーの曲はオレのだけだった。
ホント云うと慶野さんの曲も載ってたけど、それボツになっちゃったんで、オレはひと足早く上げたおかげで貴重な慶野さんのボツ曲を聴ける幸運に恵まれましてん。いやいや役得だねい。
8bit Music Powerでは、9分超えの曲を作ろうとしていたというトンチキをカマしてたせいで(結局7分超えに留めておいた)容量オーバーに悩まされて、想定してた期日よりちょっと遅れたが、それでもオレより先に仕上げてたのは国本さんとTappy君だけだった。
以前、仮データ制作の話をしたが、並木さんはエイティング社にいた頃、複数のプロジェクト間を奔走して多忙の最中だった時に、仮データを約束の日に渡せなかった事があったそうだ。
そしたら矢川っちに「シオダはどんなに忙しくても遅れた事なんか無かったぞ」って怒られたんだと、10年前に一緒に飲んだ時に聞いた。ただ、昨年キラスタのメンバーで飲んだ時に並木さんの口から再度この話が出た際、上記のシオダの部分が「高濱さん」に変わってて、残念ながら真相は闇の中である(ちなみに外注の高濱さんが仮データを組む事は無かったです)。
でもまあ確かに、オレは過去の業務において、期日を破った事が一度も無いっちゃあ無い。

と云っても、ピンチ的事情により、他人の手を借りて間に合わせた事が2回だけある。
初めて使用したドライバでスーファミを2週間で上げた時、まあオレも惜しいトコまで追い上げたものの、最終的に効果音がいくつか間に合わないと悟り、それだけは手伝ってもらった。それが1回目。
2回目は、プレステとサターンで戦国時代のシミュレーションゲームを作った時のこと。
オレ、そーゆー戦国モノって今までやる機会が無かったから、すっげえ乗り気だったんです。
しかも、この企画のぎっしー君ってのがバーチャファイターが上手くて、毎晩鍛えてもらってた事もあって仲が良かったから、ぎっしーの為にも極上の音楽を作って差し上げようっつー意気込みもあって、策をアレコレ練ってるうちに、1曲もできてないまま納期まで残り1週間になっちゃった。
とは云え、アレコレ練ってきただけあって、音源としてはまだゼロ曲でも、頭の中にはA案からC案ぐらいは出来てるモンで、仮にそれすら出来てないとしても、云い方は悪いが、イザって時には妥協して平均点の曲づくりをすれば納期もクリアできるだろうから別段慌ててはなかったし、普段はそーゆー納期ギリギリの局面を迎えても、会社のみんなは信頼してくれてたのか、大抵「間に合いそうですか?」「まあ、何とかなるよ」ぐらいの会話で済んでたモンだった。
ただ、この仲良しのぎっしーだけは違くてね。
大いに狼狽して、もうダメだ、大変な事になったと社内で大騒ぎをし始めた。
当時、阿保君がK社に来て数ヶ月ぐらいの時期で、ちょうどゲームを1タイトル仕上げたぐらいの頃だったと思ったが、ぎっしーは「もう阿保さんにも手伝ってもらう以外に手段は無い」と吠え出した。
普段のオレだったら、そーゆーのはオンガク屋として恥だと思い、突っぱねるトコロだ。
ただ、ココでふと思っちゃったんですね。阿保君のポテンシャルを一度見てみたいなあと。
阿保君ってのは、鉄壁のサウンド部隊を組織するために選んだ期待の精鋭であり、K社内での次期エースとオレが勝手に見込んだ男だから、おそらくこーゆー状況でも切り抜けるだけの腕はあるに違いない、と踏んでいましたよ。
踏んでいましたが、それでも一度ぐらいは土俵際を見てみたくなっちゃった。
だから、阿保君には申し訳ないが、この時だけはぎっしーの云う通りに従っちゃったっていうね。まあ、阿保君が無理だったらオレ一人で何とかするから大丈夫だよ、とか思って。
そしたら阿保君、1週間で大半の曲数を片付けちゃった。やっぱりオレが見込んだだけあるねいとか思って一人悦に入ってたっつー、迷惑極まりない先輩なのでした。

阿保君って、すっごいキッチリ君なんですよ。オレよか全然キッチリしてる。
音楽をハイペースでテキパキ作るんだけど、どれも几帳面な音楽でねえ。持ち物も整理されてるし、洗車も好きだし。ソコはオイラも見習いたい所存。
ちょっとオレと共通してるトコがあって、昔のゲームサウンドが持ってた、ある種不自由な部分を苦としないっつーか、むしろソコが味なんだと逆に楽しんじゃうような部分がある。
元ファミコン畑のコンポーザーですら、近年のDTMに染まっちゃったらなかなかMMLなんて書く気にならないモンだが、10年ほど前にMCKの存在を知るや、阿保君とオレは速攻手を出したからね。
そー云えば、サターンのサウンドシステムを開発したCSK社の担当者がK社に来た時、ウチのサウンドチームはプレステよりもサターンの内蔵音源の方が好きなんですよーって云ってあげたら「えええー、そう云ってもらえたの初めてですよー。今まで何社かお邪魔しましたけど、プレステの方がいいとしか云われた事なかったのでー」だって。オレら変わってんのかなあ。
DDRの出始めの頃に2人ともハマって、よく一緒にゲーセンに行ってたけど、まだ世間では矢印に合わせて踏むだけだった頃に、くるっと回ったり足をスライドさせたりっていう、俗に云うパフォーマーの走りみたいな事を2人で始めて、まあブイブイ云わしたモンでした。
でも、オレはとりあえずクリア出来れば後は何でも良かったのに対し、阿保君って派手に踏みながらもほぼノーミスで行っちゃうの。
そんな、オレなんかよりも遥かに上手なミスター・キッチリ君なのです。

そして今回のエンディングもまた掃除からの発見オチなんですが、その戦国ゲーで作ったMIDIデータとムービーを古いディスクから掘り出したんで、音源を差し替えてリメイクしてみましてん。
当時この曲をぎっしーに聴かせたら、大いに喜んで「おおおおお、まるで大河ドラマじゃないっすかあああ」だって。
何云ってやがんだ、オレの事信用しねえで大立ち回ったくせに。