苦手なことを頑張ってみる

5年ぐらい前だったかなあ、KPLECRAFTのKuske君に会った時のことなんだけど。

「シオダさんは謙虚なんですよねー、レジェンドなんだからもっと自信を持っていいのに」って云われた。
オレよか全然若いコに励まされちゃったよ、レジェンドのくせに。って誰がレジェンドやねん。
つーか、謙虚ってのは本来、悪い事ではないのが相場なハズなんだけど、オムガク屋として単身やっていく上では、あまり良い事ではない。
売り込みの上手い人が勝ち上がっていくこの世界において、自己PRが大事なのは当然なんだが、こーゆージコPがどうも得意じゃないんだからなかなか致命的である。
かと云って、このまま埋もれていくのもヨロシくないので、このサイトを借りてジコピーの練習を日夜頑張る所存ですので、暖かく見守っていただきたく思う次第でありマス。

オレはその場面に最適なBGMを当てる芸当に関しては、自信があります。
ってその道のプロとして当たり前すぎる事を云ってもしゃーないんだけど、基本的に作品を提出する度にチヤホヤされて生きてきた生粋のボンボンなんで、そりゃ自信だって発生しますよ。
ただ、もちろん全てがスムーズに行った訳ではなく、クレームが来る事もタマーにあった。
その代表例が烈火なんだけど、まあコレに関しては過去に触れたからいいとして、近年妙に人気がある相撲ファイターの音楽もそうで、一度全曲ボツを喰らって、ゲーム2本分を超える曲数を作らされているあたりは烈火と全く同じだ。
だってアレ、スタッフの誰もが方向性が見えてないっつー迷路の中で作ってんだもん。
オレは最低限、自分の役割ぐらいは掴めていたつもりだったからせっせとノルマの曲数を上げたが、いかんせん先方がどの曲もピンと来てないときてる。そのくせステージ4だけはスタッフ総出で大絶賛してくるっつー謎基準によって、オレまで迷路に引き摺り込もうとする。
挙げ句、開発終盤になって「コミカル路線で行きたい」という具体的な要望が来て、コミカルな「相撲ファイター2」の音楽をイチから完成させたところでクライアントさんがミーティングにかけたそうだが、先方の社長が「コレだ!」って叫んだだけで終わったんだそうで、やっぱ最初の相撲ファイター1の曲の方がまだマシかなあっていう結論に至ったんだから、骨折り損もボキボキですよ。
相撲に関しては曲調だけでなく、作曲面についてもいっぱいクレームが来た。
例えばステージ1の曲は当初、曲の終わりにも冒頭のメロディ(に違うコードを乗せたモノ)を使用してたんだけど、「曲がどこでループしてるのかワカンネエから直せ」と云われた。
ゲームボーイの小さいスピーカーじゃベースの音がロクに再生されず、和声感が伝わりにくいのは承知だが、仮にこの曲のループがオカシイと思われたとしても、ヘッドホンで聴いてみた時に「あー、最後はコード進行が違うのかー」って気付く事だって、音楽の楽しみ方のひとつだとオレは思うんですよ。
だから抵抗したものの、チーム外の人たちをも巻き込んだ丁々発止にまで発展して、何故か負けた。だから今でも1面の曲を聴くと悔しさばかりが湧くし、直す前のバージョンの方が絶対に良かったと思っている。
クライアントさんの一人に「ボク、昔バンドやってたから解るんだけど、ここのコード間違ってるね」なんて切り出された。
この音楽を作るに当たって、和のメロディーに見合わないコードを乗せてギャップを生み出せたらさぞ面白かろうと企んで、テンションコードや分数コードを多用した。そーゆー創意工夫があったからこそ、近年になって好評価を勝ち得る事ができたんだと思っている。
ただコレが、アマチュアバンドマンの感性に引っかかった。「ここの部分、ベースが半音高いんじゃないかなあ」なんて云う。
もちろん、そんな訳がないんだが、こりゃ実際に試して聴かせないと納得しないだろーなーと思い、半音下げたら当然だが曲が崩壊した。「あ、間違えた。半音上げるんだったね」と云うからまたやってみせたが、もちろん音楽の体を為すには至らず、ようやく「……スイマセン、最初のに戻して下さい」と諦めた。
申し訳ないが、オレの曲はバンド経験者風情の手に負えるような、アマイ構造にはなっていない。
過去にマイ曲のカバーをプロアマ問わずいくつか聴いたが、原曲に忠実なカバー(サカモト教授やBlaue_Augenさんは上手かった)を除いては、オレの和声感が理解できなかったらしく、お粗末な内容にしかなっていない。
唯一、イジっても破綻しなかったのは並木さんぐらいで、あのぐらい卓越した技術や発達した感性が無いかぎり、オレの曲は扱い難いモノなのかも知れん。
実際に数年前、とあるボーカリストに歌モノの曲を提供したところ、「ピアニストとデュオでやりたい」という要望があったからご丁寧にコード譜まで渡したにも関わらず、過去にその曲に挑んだ数人のピアニストのうち、コードを間違えずに弾けた人は誰もいない。

烈火や相撲ファイターみたいに、リスキーな曲作りをした方が刺激的なモノが生まれるのは分かっているけど、作ってる最中の嫌われ方はなかなか堪えるモンがある。
だから普段はそんなリスキーな作曲などせず、安定した評価を得るよう心掛けてるけど、過去に一度だけ、無難に置きに行った仕事に対してどストレートな悪態をつかれた事があった。
クレームの主はそのゲームを担当した古参の絵描きなんだが、オレがその絵描きのブースを通過したところで呼び止めるや「今回の音楽、全然良くないよ」と来た。
こんのどシロートがああああ、とムカっ腹を立てるオレの様子などお構いなしにサウンドテストを立ち上げ、ホラ、コレなんか全然合ってないよ、あとコレも、コレも、と1曲目から順にダメ出しを始めた。
ところが、ある曲を再生したところで「まあ……この曲は合ってるんだけどさー」と云う。
その後も、ホラ、コレも良くない、コレもコレもを続ける中、「コレは良いんだけどさー」をいくつか挟みつつ最後まで終えたんだが、まあ驚いた。
実はこのゲーム、社内ではオレがサウンド担当として矢面に立ってはいたが、この時ちょうど激務の渦中にあったため、最初に数曲作っただけで残りの大半を他の人にお願いしたモノだった。
なのに、このどシロート、良いの悪いのと云いながら、オレと他人の曲を完っ璧に振り分けてみせた。
オレはこの、大半を作曲した御仁を一流と認めているが、確かにこの「最適なBGMを添える」という部分に関してはちょっと引っかかる部分があった。
アマチュアの良し悪しの基準なんて単なる好みだから、かなーり偶然性に左右される。なのに、そーゆー偶然が入る余地もないぐらい、オレとその御仁の間には絶対的な実力差が存在したという事になる。
上質を知ることは上達への近道だが、この古参の絵描きのように、K社に入社した頃から当たり前のようにオレの音楽に触れている連中が、転職した先の音楽に物足りなさを感じるという話は、実はそれなりに聞く。

とあるゲームのBGMを担当した時のこと。テーマソングは大手レコード会社に依頼したそうで、仮歌入りのバージョンが上がってきた際に聴かせてもらった。
まあ、メジャーっつっても所詮こんなモンでしょーね。
メロや展開に工夫など無いし、コード進行に初歩的なミスがある。高校生の頃、友達が作った曲が同様の進行をしていて、オレだったらココを練り直さない限り人前になんか出せないけどなーと当時すでに思っていた。その程度の作曲レベルである。要は曲を展開させるアイディアがまるで足りていないんであって、せいぜい昭和中期ぐらいまでならこーゆーお粗末な内容でも許してもらえたんだろうけど、もうそんな時代ではない。
ところで、そのゲームの企画担当はK社でキャリアをスタートさせている男だ。
仮歌デモのお披露目の席で、メジャーのプロデューサーに対して周囲がチヤホヤする中、その企画君はただ一人「ちょっと、古くないですか?」と云い放ったらしい。
そしたら「うちを何だと思ってるんだ!メジャーだぞ!」って激怒されて、この話は無かった事に、と切り出されるほどの修羅場と化したんだそうだ。
企画君、音楽はシロートだけど、その現場でただ一人、この曲のウィークポイントを見抜いたのである。
仮に、これがK社でのオレの胎教による結果なんだとしても、まあ、メジャーを逆上させてしまうトコまでは責任負えませんが。