一人で充分

先日、アーケード版ブライファイターについての質問を戴いたんですが。

まあ、確かに作りましたよ。作りましたが、結局世に出てないし、ブライファイターというタイトルも開発途中で変更になってしまっている。
なので正しくは、ブライファイターのような人型シューティングをアーケード用に作ったって事になる。
ちょっと笑えるのが、2Pキャラが女性なんですよ。オープニングデモの途中で1Pと2Pの顔のアップが順番に出てきて「こんなヤツら、俺一人で充分だぜ」「生意気いってんじゃないわよ」みたいなシーンがあって。
で、また云うけど、世に出てません。
なのに質問の主によると、全曲集が以前ニコニコ動画に上がってたんだという。
この、アーケードゲーから音源を拾ってくるパターン、以前別ゲーで確認した事があるんだけど、なかなかのショッキング音源なんだよなああ。音痩せが酷かったり、テンポやキーがてんで狂ってたりと、まあ悲惨な状態で公開されちゃう。もちろんシオダの作として、である。
個人的には自曲が聴ける場が在るのはとても嬉しいことだが、そーゆー事態を考えると、聴けなくなってひと安心という気持ちも確かにある。

このブライを制作したのは93年の春なんだけど、オレはスゲー悩んでいた。
と云うのも、この直前までオリビアの音楽制作をやっていて、残念ながら呪われ音楽と化してしまったものの、当時のゲー曲としては珍しい内容に挑戦できた意欲作だった。
オレはそれまでの経歴の中で、例えばファーステスト・ラップ相撲ファイター烈火などの例にあるように、試行錯誤好きっつーか、一筋縄では行きたくない病みたいなのをしばしば発症させてきたが、オリビアがきっかけでこの病もついに末期を迎えてしまった。
で、いざブライを担当する事となり、例のありきたりなゲーム画面と対峙した時に、またありきたりなゲームの世界に戻るのかーと思うと何だかやる瀬ない心持ちになってしまって、もうゲーム制作からは足を洗おう、新たな世界に踏み出さねば、と思い立って社長に退職を申し出るとこまで行ったんだけど、まあ、そこは社長の方が数枚上手でね。まんまと丸め込まれてしまいまして。

この一件で社長は「シオダは今スランプなんだ」と判断して気を遣ってくれたおかげで、オレはブライではサウンドのサブに回る事になった。
そこで代わりにメインとしてオファーを出したのは、以前K社にデモテープを持ち込んできた、とあるフリーの作曲家である。
社長曰く、自らを「先生」と称するベテランと思わしき方で、デモテを聴くと冒頭や曲間にプロの声優さんのナレーションがいちいち入ってくるといった手の込んだモノだったが、肝心の作曲力の方はさして魅力的でもない。わざわざオファーする是非を疑問に思いつつ、先生のもとに単身打ち合わせに出かけた。
そこの奥サマがアラいやだ随分若いのねと妙に浮かれる中を仕事場に通されると、まずはオレとは初対面の先生によるアピール大会に突入。
ホラ例えばこの曲なんて、FM音源が6音なんだけど、メロディーとベースと、あとはコードのアルペジオしか使ってないんだよ、ビックリでしょ?実は、メロディーとアルペジオは2チャンネル使ってタイミングをずらしてディレイみたいに鳴らしてるんだ、キレイでしょ?こーゆー音楽は大抵3パートもあれば十分なんですよ〜、などとご機嫌に語っていたら電話が鳴った。
「いやーありがとうゴザイマス〜、それがウリですから〜」などといった会話ののちに電話を切ると「いやー今ね、オマエの曲は相変わらずクサイなー、匂い立つクサさがあるなーって云われたからそれがウリだって云ってねー」と大層ご満悦に話すと今度は、ホラこの曲ではFM音源でティンパニーを作ったんだけど、こんなの聞いた事ないでしょ?あとこの曲のベースはね〜、といった類の話が続いた。
でも確かに、FM音源の音色づくりは上手かった。オレは逆に、専門学校に通ってた2年間のうち、たったの2時間だけ教わったFM音源制作ですっかり苦手意識を刷り込まれてしまったから、そこは羨ましい技術だと素直に思った。
結局、午前中を先生の大アピール祭りに費やしてしまい、先生の接待費で昼食を奢ってもらって、午後からようやく業務内容の説明に入ったんだが、そこで「キミの曲も聴かせてよ」と云われ、オレも辞めるの何のと云いつつ何曲か作ってたから「今回のゲーム、例えばこんな曲調が合うイメージなんですけど」と聴かせてみた。
まあ、オレも分かってたんですよ。コッチはブラスセクションっぽい重厚感を出そうとテンションコードを重ねちゃってるし、転調だって派手だし、そんな中に先生の音楽を混ぜたって貧相に聴こえるだけだってのは最初から分かってたんですよ。
それは先生にとっても明白だったようで「いやー、でも、いま忙しいんだよなー。さっきの電話聞いたでしょ?なかなか時間が取れなくてさー。だから今回はちょっと、うーん、請けられないかなあああ」と、さっきまでの絶好調っぷりとは打って変わって、すっかり逃げ腰になってしまった。
先生、最終的にはミュージカルの作曲家になりたいって云ってたけど、だったら尚更この程度のハーモナイズぐらい日頃からやっておかないとダメでしょーよ。
帰りがけ「ところでキミの曲、なかなかイイよ。良かったらウチでアルバイトしない?」と誘われたが、生憎そこまで易々と手柄を明け渡すような甘っちょろいオトコではないのだ。

結局、気が付けばオレがメインでやってました。当時K社に在籍していたもう一人のサウンドの人に何曲か作ってもらったぐらいで。
でも、この程度の少量のヘルプを入れるぐらいなら、一人で充分だったなーと後悔しつつ。
と云うのも、一本の作品の中で実力差が生じるのをあまり良く思ってなくて。ってこれは一般のリスナーにはバレる心配のない、単なる制作者のエゴかも知れないけど、そーやって細部にまで神経を尖らせるってのは大事なことだと思いますよ。
だからK社サウンドチームは基本的に、一人で全部作る方針でやっておりま。
スーファミ以降であれば、音色や効果音専門のスタッフを入れた方がホントはイイんだけど、いかんせんK社の財力がですね。