ネガティブクリスマス

今年もクリスマスバージョン始めました。25日までの期間限定って事で。

今回は某スーファミゲーの曲にしてみた。
このゲーム、K社作品の中では一番の売り上げを誇ったらしい。
こないだ、たまたまニコ動でこのゲームのプレイ動画を見つけたんだけど、売れただけあってなかなか人気があるみたいで、コメントもいっぱい並んでて何だか嬉しかったから、今年はこのゲー曲からセレクトしてやろうかと思いましてん。
ただ残念な事に、この頃のオレのモチベーションってどん底でね。だからこのタイトルにいい思い出って無いんですよ。

ツイッターでも触れたけど「サターン屈指のクソゲー」と評されたゲームを作った事がある。
その直前のたった一ヶ月でアーケードゲームを2本作り、さらにプレステの某ゲームをサターンに移植までしてたんだから、その時点でかなり大車輪色が強かったのに、次のサターン屈指のヤツ、面倒だから「必殺!」って云っちゃうけど、この必殺チームに合流したら納期まで残り3週間しか無いと来たもんだ。
もうね、どう安く見積もったって、その時点で3人分以上の仕事をさせられてるんだから、これから作るゲームのキャラ以上に作ってる側の方が仕事人なんぢゃねえかと思わずにはいられないですよ。
そして、いざ合流してみたら、仮データを作る段階でいきなり面倒なんだから参った。
ゲームサウンド制作の手順としては、まず最初に音楽や効果音のリクエスト表と、それに沿った仮のデータを作ってプログラマーに渡すトコから始めます。
サウンドが全て完成した後で一覧表と本チャンのデータを渡してたんじゃあプログラマーに迷惑だから、サウンドの仕様が決まったらすぐに「データの何番を呼び出すとこの音が鳴る」という表と、実際にそれに近い音が出る仮のサウンドデータを用意する必要がある。
このゲームにはヤマダ君と門松っちゃんという2人のプログラマーがいて、ヤマダ君は「サウンドデータなんてすぐ組めるから、最後にまとめてもらう方が二度手間にならなくていい」と云うのに対し、門松っちゃんは「遅くても明日中に下さい。ホントは今すぐにでも欲しいぐらいです」と云う。
時間に余裕があればそれでも構わないんだが、その時のオレの立場からすれば、やるなら全部やる、後でいいなら全部やらない方が助かるのに、2人でバラバラな要求をするモンだから、門松っちゃんのパートだけを選った面倒くさいデータを作らされるハメになって、一日でも多く音楽制作の時間に充てたかったオレとしては結構な痛手だった。
必殺シリーズって全く見た事なかったんで、まずはその世界観を理解するのが先決だと思って、クライアントのバンダイビジュアルさんから資料として貸してもらった「必殺仕置人」を全話見ながら、使えそうな効果音とかをピックアップしていった。
見終わった時点で1週間が経過していたから、残りの2週間で作曲と効果音を全部仕上げた事になる。

ゲームも無事マスターUPして、飲み屋での打ち上げの席でギャーギャーと下品に盛り上がっていたら、バンダイビジュアルの皆さんが何だか神妙な顔をしてオレの横に整列しているのに気が付いた。
一体何事かと思ったら「今回は褒める箇所も無いクソゲーになると覚悟してましたが、シオダさんのおかげで『音楽だけは!』って堂々と云える内容になりました」って一同から頭を下げられて、コッチが逆に恐縮した。
正直、音楽の出来には納得してないですよ。何しろ時間が無かったから、あと一日あればもっと良くなったし、あと二日あればさらに良くなった、って後悔するばかりだ。
そんな、必要最小限の事しかできてない内容だが、「必要」の部分はどうにか満たせたとも云える。
こうやってクライアントさん直々に、しかもオレだけ特別に感謝されたんだから、この時はさすがに頑張って良かったなあと思ったんです。
このゲームを企画したリーダーからの「シオちゃん、変拍子バリバリのプログレの曲作ってよ」という要求には乗らず、自分が最良と思う内容を貫いただけに尚更ですよ。

ゲーム業界ってトコは納期が遅れて当たり前な世界なんで、その点については寛容である。
ただ当然ペナルティーはあって、遅れる毎に何百万円マイナスという契約内容になっているから、制作するソフトハウス側としては最初の何百万円は残らないモノとして計算するのが常である。
そんな中、この「必殺!」はK社で唯一、最初の期日に一発納品できたモノかも知れん。
ある日、社長が必殺チームを会議室に集めて、現ナマ100万円也を置いて「全員で分けていいからな」と云い残して去っていった。K社に10年居て、このような臨時賞与を貰ったのはこの時だけだ。
全員で配分を考えた結果、メインで頑張ったスタッフは9万円、サブの人はその半分ぐらいでちょうど分けられそうだという事になり、企画は誰がメインで誰がサブで、グラフィックのメインは誰と誰で、という振り分けが粗方終わったところで、例のリーダーがオレを見て云った。
「キミ、頑張った?」
何か、唖然としてしまった。一体何を云ってるんだろう。今思えば、オレだけ最後の3週間しか合流してなくて、その間みんな迷惑してたんだぞ、みたいな事が云いたかったのかも知れない。
「じゃあキミ、半分の方ね」

この話を知る社内の人達は「でもあのゲーム、サウンドしか良いトコ無いじゃん」と云う。
嬉しい事に、一般的な世評としても、あのゲームの功労者は音楽の人だ、とされている。
でもまぁ、そーゆーのは個人の主観だし、そこは割り切ってあげてもいいんだが、一番納得が行かないのはオレはあのチームで唯一のサウンド担当という事だ。
サウンドは、ゲーム制作においてはサブでしか無いと云われたも同然である。
ゲーム業界全体的な事は知らないけど、昔からそーゆー部分は痛感していた。ゲームの内容を立案する人やプログラムを組む人、絵を描く人がいないとゲームは成り立たないけど、音は無くたってとりあえず遊べるじゃないか、みたいな考え方というか。
オレは金銭には無頓着っつーか、生活に困らなければそれでいい性分で、K社にいた頃は給料明細に目を通した事もない。
だから人より収入が低いのは気にならないものの、こうやって自分に対する評価として示されたとなっちゃあやってられない。
バンダイビジュアルさんから云われたように、スーファミ以降のK社は「クソゲーだけど、サウンドだけは」と評され続け、オレは孤軍奮闘してきた。生産ペースだって他社より早かったと思う。入ったばかりの1年目に8本のタイトルに関わって以降、大体そのぐらいのペースでやっていた。
人より多くの仕事をして、内容でも評価されて、なのに社内ではそれに見合った評価をされた事は無かった。しばらく後の在籍9年目に、これと云った活躍を誰もしなかった年に、社長賞をポンと貰ったぐらいだ。
そーゆー面で、それまで随分と不遇を感じてきたけど、ここへ来ていよいよやり切れなくなった。
なので「必殺!」を境に、ゲー曲制作に対するモチベが下がったという部分はあって、それ以降に作った音楽は今でもなかなか聴く気にはなれない。

で、クリスマス曲ですが、コレ、必殺の直後に作ったゲー曲なんですよ。もぉどん底もいいとこで。
なのである意味、自分の中ではトップクラスに聴くのがツライ曲だったりする。